つくばシティに住むジェネは、家の窓から見える筑波山の脇にそびえ立つ気象制御タワーを見ながら物思いにふけるのが日課だった。
特殊潜航艇の特別枠の試験にパスして1年が経ち、厳しい訓練を終えてマリアナ海溝でのミッションに臨む日の朝。
自称母親がわりのイオナたちの様子がいつもと違っていたことに気がついたのは、既に海底に潜航して7千メートルに達してからだった。
ジェネが所属するICMC(国際危機管理センター)阿字ヶ浦研究所が現在注力しているのは、海底にある空間次元断層の調査だ。
地球を覆って久しい寒冷化の影響で、人類は試練の時代と向き合っていた。
その拠り所になっているのがルーフケイズ技術だ。
異世界の使者からもたらされた魔法のごとき術によって電力を得る。
そのことに疑問の声をあげることはタブーとされていた。
ジェネの両親はルーフケイズ技術の研究者だったが、実験中の事故によって死亡していた。
本当にこの技術は正しいのだろうか?
その思いがジェネを深海に導いていた。
そして、いま、マリアナ海溝の底で、疑問を開く鍵に接触しようとしていた。